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グローバル企業の脱中国とベトナムへの生産拠点移管の動きが加速

米中貿易摩擦の恩恵を受けたベトナム

 新型コロナウイルスの拡大により、世界経済が停滞する中、もう一つの懸念事項が米中関係の悪化である。7月24日にはアメリカはテキサス州の中国総領事館の閉鎖を命じたが、中国は報復措置として、四川省成都市にあるアメリカ総領事館を閉鎖した。また、米中の貿易摩擦も昨年から特に深刻化しており、グローバル経済における両国の関係が大きなリスク要因となっている。

 一方、そうした米中の貿易摩擦から恩恵を受けていたのはベトナムであった。アメリカによる関税引き上げを回避するため、中国企業の進出が相次いでおり、中国の工場をベトナムに移転する動きが加速している。これはベトナムに生産拠点を移し、ベトナム製として輸出するためである。

 これまでのベトナム経済の主な成長要因として、海外からの投資の増加があげられるが、昨年は中国からの投資の増加が目立った。ベトナム外国投資庁の統計によれば、2019年、中国からの投資は認可額で30億2,400米ドル(全体比13.4%)に及び、前年比で75%の増加となった。また、香港からの投資も、34億1,800米ドル(全体比15.2%)で、前年比75%増であった。認可額ベースで首位の韓国には及ばないものの、国別順位で香港(2位)、中国(3位)と日本(4位)を上回った。

グローバル企業が次々に中国から生産移転

 中国から生産拠点をベトナムに移転する企業は中国企業に留まらず、最近では多くのグローバル企業がベトナムへの移管を発表している。まずは日本企業の例を見てみたい。

  • 任天堂は主力の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の生産の一部を中国からベトナムに移管。スイッチの世界販売台数は2018年度で約1700万台に及び、うち約4割がアメリカを中心とするアメリカ大陸向けが占めている
  • スポーツ用品メーカーのアシックスはベトナムへの生産拠点の移転を既に完了。アメリカ大陸向けの売上高比率は約20%程度である
  • 京セラは2019年8月、谷本秀夫社長がアメリカ向けコピー機や複合機の生産を中国からベトナムに移管すると正式表明した

また、日本企業以外の企業については以下の通りである

  • アップルは世界に分散する自社製品の各サプライヤーに対して、中国生産のうち、15〜30%を海外に分散するように要請。それを受け、中国のゴーテック者は、アップルのワイヤレスイヤホン「AirPods」の生産をベトナム北部にて開始
  • スポーツアパレル企業のブルックスは、ランニングシューズに関税が45%課されることを予測し、自社のランニングシューズの生産拠点を中国からベトナムに移管することを決定
  • パソコン大手の華碩電脳(エイスース)は、自社のパソコンの生産拠点を台湾やベトナムへ移管する

このようにグローバル企業の脱中国、ベトナムへの生産拠点の移転の動きが目立つようになっている。

生産拠点としてベトナムが選ばれる要因

中国からの生産拠点の移転において、ベトナムが選ばれる要因としては、製造業が進出しやすい環境が整っていることが大きな要因の1つであろう。まずはコスト面であるが、ベトナムでは人件費は年々上昇しているものの、それでもタイ(平均賃金413ドル)、マレーシア(413ドル)、中国(535ドル)、インドネシア(274ドル)、フィリピン(228ドル)と比較してもベトナムは(220ドル)は安価である。また、工業団地の賃料もタイ等を大きく下回る。

ベトナムは東南アジア、日中米という大市場の結節点に位置しており、物流で有利な位置にある。特に、ベトナムは多くの国と自由貿易協定(FTA)を結んでおり、税制面で優遇を受けやすい。

また、ベトナム経済は高成長を維持しており、2019年の成長率は世界193ヶ国・地域中12番目に高い。更に、政治的にも安定しており、他のASEAN諸国に比べ、政治的に安定している。

こういった比較優位の存在がベトナムが選ばれる要因であると考えられる。新型コロナウイルスの発生というリスク要因も明らかになった今、脱中国の動きは世界的なトレンドになりつつある。今後、グローバルサプライチェーンの構造変化に伴い、ベトナムの存在感はますます拡大していくだろう。

次回の記事では、引き続き、ベトナムへの生産拠点について、問題点も取り上げながら、分析を続けていきたい。

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