ベトナムの地方区分
ベトナムには現在58の省と5つの中央直轄市が存在する。また国土全体はハノイ市を中心とした北部、ダナン市を中心とした中部、ホーチミン市を中心とした南部に分かれており、それぞれの地方において特徴が存在する。
北部地方は、政治・文化・教育の中心である首都ハノイ市が中心となっており、中国と国境で接していることから古くから中国との関係が強い。前3世紀頃には秦の始皇帝が南海郡を置いて支配、その後南越が興ったが、漢の武帝が再び制圧し、前111年に南海9郡を置き、直轄領とした。このようにベトナム北部は中国の王朝の支配を受けることが長かったため、漢字文化圏に属することとなり、儒教や科挙制度なども採り入れられた。10世紀の唐滅亡後、ベトナム人の独立の動きが強まり、最初の李朝以下、ベトナム人の国家大越国の王朝が交替していくが、中国の各王朝は宗主権を維持し、時に直接支配を及ぼすこともあった。現在でも、北部は他の地域に比べて中国との経済的つながりが強い。北部の気候は春夏秋冬の四季に分かれる熱帯性モンスーン気候。。春(2 月~4 月)は一番過ごしやすい季節で、平均気温が 18 度~20 度。夏(4 月~9 月)は蒸し暑くて気温がかなり高く(27 度~34 度)、雨が多い。6 月、7 月、8 月に西南から Phon という暑い風が吹くと日中の気温が 40 度に上ることもある。秋(9 月~10 月)は晴天が多く、気温は 24 度~28 度。冬(11月~2 月)は冷たい東北モンスーンが吹き、気温が 15 度~17 度で、乾いた気候になる。
中部はフエを中心に、ベトナム人とは異なるオーストロネシア系のチャム人が居住していた。漢の日南郡の支配を受けていたが、後漢頃から自立し始め、中国資料では林邑として登場する。彼等は自らはチャンパーと称し、港市国家として繁栄した。7世紀の唐代には環王国、9世紀以降は占城国という名で中国史上に現れる。チャンパーは15世紀には北部ベトナムのベトナム人の黎朝に圧迫され1471年に滅亡した。中部の気候は北中部及び南中部沿岸地域の 2 つの地域に分けられている。北中部は北部と違い、冬と夏という 2 つの季節しかない。冬は水蒸気を含む風が吹いてきて、空気は冷たく、雨が多い。一方夏は西南から Phon と呼ばれる風が吹いてくるため湿気が少なく、気温は 40 度以上に上ることもある。南中部沿岸地域は一年中暑いため、雨季(8月~12月)と乾季(1月~7月)に分けられている。乾季は降水量が少ないため、旱魃が起こりやすい一方、雨季の平均降水量は 2,500mm で、全国一多いため、頻繁に洪水が起こる。
南部は歴史的にはベトナム北部とは異なり、カンボジアとともに扶南という東南アジア最古の国家が存在した。扶南は港市国家として海上交易が盛んで、4世紀頃からインド文化が流入し、仏教とともにヒンドゥー教の影響を受けた文化が形成された。7世紀にはクメール人の国である真臘(カンボジア王国)に征服された。メコンデルタ地方のカンボジアによる支配は長く続いたが、17世紀後半からベトナム人の進出が激しくなり、フエを本拠としたベトナム人の地方政権阮氏がメコンデルタ(コーチシナ)に広南(クァンナム)国を建国した。その後、1802年にベトナム全土を統一した阮福映の阮朝に併合された。気候は赤道熱帯モンスーン気候のため、湿気が多く日照量が豊富である。北部及び中部と違い、1年中暑い気候にあり、最低気温はおよそ 24 度(12 月~2 月)、最高気温は40 度以上に上ることがある。南部の気候は雨季(5 月~11 月)及び乾季(12 月~4 月)に分けられている。年間の平均湿度は 80%~82%で、降水量は 966mm~1,325mm 。ホーチミン市の隣接地域から西・西南にかけて地形が低くなりつつあり、降雨による浸食は熱帯性低気圧と共に大規模な洪水を起こすことがある。
各地方における省・都市の詳細データ
今回はベトナム各省・中央直轄都市のそれぞれの人口、平均年収、リテール売上、外国直接投資の累計額、さらに特徴を記したベトナムのパーフェクトガイドをお届けする。
なお下の情報はすべて2018年時点でのベトナム統計総局のデータを基にONE-VALUE社がまとめたものである。
北部の各省・都市
都市名 | 人口 (千人) | 平均年収 (ドル) | リテール売上 (百万ドル) | 外国直接投資累計 (百万ドル) | 一口メモ | |
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1 | ハノイ市 | 7420 | 2672 | 20085 | 27638 | 首都。政治・文化・教育の中心。 |
2 | ヴィンフック省 | 1080 | 1504 | 1801 | 4038 | 2008年にハノイ市に一部併合 |
3 | バクニン省 | 1215 | 2297 | 1990 | 16178 | 全国の鉱工業生産高トップ5。トヨタやサムスン等の企業を誘致。 |
4 | ハイズオン省 | 1797 | 1666 | 2016 | 7847 | バインダウサインという緑豆のお菓子の名産地 |
5 | ハイフォン市 | 1998 | 2438 | 4007 | 15209 | 北部最大の港ラックフェン国際港を持つ |
6 | フンイェン省 | 1176 | 1522 | 1091 | 4242 | 日系の工業団地が進出 |
7 | タイビン省 | 1792 | 1474 | 1432 | 606 | 北部の農業の中心 |
8 | ハナム省 | 806 | 1487 | 802 | 2438 | シルク布の生産が盛ん |
9 | ナムディン省 | 1853 | 1584 | 1541 | 3119 | ベトナム初のラサール条約湿地であるスアン・トゥイ国立公園がある |
10 | ニンビン省 | 962 | 1532 | 1149 | 1266 | 景勝地タム・コックが有名。 |
11 | クアンニン省 | 1244 | 2003 | 3234 | 5864 | 世界遺産ハロン湾があり、チャン・フン・ダオが元寇を破ったバクダン港がある |
12 | ハザン省 | 834 | 701 | 350 | 11 | 最北の省。お茶の生産量が3位 |
13 | カオバン省 | 535 | 867 | 245 | 80 | ベトナム独立同盟(ベトミン)の結成地 |
14 | バクカン省 | 323 | 742 | 192 | 13 | ベトナム最大の湖である「バーべー湖」がある |
15 | トウェンクアン省 | 774 | 928 | 573 | 162 | 故ホーチミン氏が開放決起の準備の際に使用したナルア納屋がある |
16 | ラオカイ省 | 694 | 979 | 691 | 581 | 中国との国境貿易が盛ん |
17 | イェンバイ省 | 807 | 952 | 653 | 436 | タックバ発電所はベトナム初の水力発電所 |
18 | タイグエン省 | 1255 | 1597 | 1138 | 7331 | 茶の名産地。茶生産量2位 |
19 | ランソン省 | 778 | 890 | 709 | 226 | 中国との国境貿易が盛ん |
20 | バクザン省 | 1674 | 1462 | 1116 | 4484 | ルック・ガン県のライチが名産 |
21 | フートォ省 | 1393 | 1251 | 1069 | 1085 | ベトナム最初の王国ヴァン・ラン王国があった。 |
22 | ディエンビエン省 | 567 | 646 | 383 | 3 | フランスに勝利したディエンビエンフーの戦いで有名 |
23 | ライチャウ省 | 446 | 694 | 167 | 4 | 人口密度が最小 |
24 | ソンラ省 | 1229 | 682 | 825 | 148 | 東南アジア最大の水力発電所であるソンラ発電所 |
25 | ホアビン省 | 839 | 1016 | 493 | 561 | ホアビン水力発電所がある |
中部の各省・都市
都市名 | 人口 (千人) | 平均年収 (ドル) | リテール売上 (百万ドル) | 外国直接投資累計 (百万ドル) | 一口メモ | |
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1 | タインホア省 | 3554 | 1166 | 3553 | 13819 | サトウキビ生産量2位 |
2 | ゲアン省 | 3131 | 961 | 2623 | 1821 | 故ホーチミン国家主席の出身地 |
3 | ハディン省 | 1272 | 1096 | 1675 | 11613 | 詩人グエンズーの出身地 |
4 | クアンビン省 | 883 | 1188 | 897 | 538 | 世界遺産フォンニャー・ケバン |
5 | クアンチ省 | 627 | 1079 | 1045 | 61 | ベトナム戦争時の南北の境界 |
6 | トゥアディエン=フエ省 | 1154 | 1370 | 1475 | 2382 | ベトナム最後の王朝、グエン朝の都フエがあった場所 |
7 | ダナン市 | 1064 | 2309 | 3400 | 4675 | 中部の中心都市。リゾート地として発展 |
8 | クアンナム省 | 1494 | 1153 | 1714 | 5816 | ホイアンの古い町並み、ミーソン遺跡の2つの世界遺産 |
9 | クアンガイ省 | 1262 | 1136 | 1935 | 1450 | ズンクワット石油精製所 |
10 | ビンディン省 | 1529 | 1372 | 2466 | 672 | チャンパ遺跡群で有名 |
11 | フーイェン省 | 904 | 1242 | 1193 | 4969 | マグロ漁で有名 |
12 | カインホア省 | 1222 | 1535 | 3543 | 4175 | ニャチャンはビーチリゾートとして有名 |
13 | ニントゥアン省 | 607 | 1231 | 736 | 1303 | 原子力発電所計画があったが、現在は中止 |
14 | ビントゥアン省 | 1230 | 1428 | 1886 | 3567 | ファンティエットがビーチリゾートとして有名 |
15 | コントゥム省 | 520 | 1029 | 623 | 82 | 省名は少数民族の言葉で「大きな湖」の意味 |
16 | ザーライ省 | 1437 | 1028 | 2094 | 12 | 面積が最も大きな省。サトウキビ・胡椒の生産量1位 |
17 | ダクラク省 | 1897 | 1226 | 2711 | 194 | コーヒー・トウモロコシ生産量1位、カシューナッツ生産量2位 |
18 | ダクノン省 | 626 | 1230 | 519 | 96 | ボーキサイトの埋蔵量が多い、コーヒー生産量3位 |
19 | ラムドン省 | 1299 | 1566 | 1797 | 526 | 花。高原野菜の生産が盛ん。茶の生産量1位 |
南部の各省・都市
都市名 | 人口 (千人) | 平均年収 (ドル) | リテール売上 (百万ドル) | 外国直接投資累計 (百万ドル) | 一口メモ | |
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1 | ビンフォック省 | 969 | 1655 | 1600 | 1961 | 天然ゴム、カシューナッツ生産量1位 |
2 | タイニン省 | 1126 | 1788 | 2814 | 5052 | カンボジアとの国境貿易が盛ん |
3 | ビンズオン省 | 2071 | 2804 | 5951 | 30339 | ベカメックス東急が新都市の開発中 |
4 | ドンナイ省 | 3027 | 2332 | 6162 | 27350 | アマタ工業団地に日系企業の進出が多い |
5 | バリア=ヴンタウ省 | 1102 | 2316 | 2703 | 26838 | 石油生産の中心、新港湾カイメップ・チーバイ港 |
6 | ホーチミン市 | 8445 | 2896 | 37679 | 43879 | ベトナム最大の商業都市 |
7 | ロンアン省 | 1497 | 1704 | 2758 | 6971 | ホーチミン市に隣接するメコンデルタの玄関口 |
8 | ティエンザン省 | 1752 | 1650 | 2432 | 2202 | 水産養殖が盛んで水上マーケットが開かれている |
9 | ベンチェ省 | 1267 | 1290 | 1496 | 865 | ココナッツの名産地 |
10 | チャヴィン省 | 1046 | 1169 | 944 | 3081 | クメール人が多く住み、クメール寺院が有名 |
11 | ヴィンロン省 | 1050 | 1253 | 1763 | 553 | サツマイモ生産量1位 |
12 | ドンタップ省 | 1690 | 1415 | 3272 | 169 | コメ生産量3位。なまず生産量が1位 |
13 | アンザン省 | 2162 | 1537 | 4212 | 198 | コメ生産量2位。なまず生産量2位 |
14 | キエンザン省 | 1793 | 1586 | 3532 | 4371 | 水産物水揚量が1位。コメ生産量1位 |
15 | カントー市 | 1273 | 1769 | 3392 | 644 | メコンデルタの中心都市 |
16 | ハウザン省 | 775 | 1374 | 1420 | 794 | 2004年にカントー省から分離 |
17 | ソクチャン省 | 1314 | 1340 | 2637 | 126 | エビ養殖量2位。クメール人が多く住む |
18 | バクリュウ省 | 894 | 1222 | 1972 | 72 | エビ養殖量3位 |
19 | カマウ省 | 1226 | 1249 | 2347 | 40 | エビ養殖量1位。最南端の省 |
現在、ベトナムでは国だけではなくて各省・都市の人民委員会(UBND)が積極的に外国直接投資を有している。これまで主だったハノイ市やホーチミン市における工業団地への投資の他にも、地方におけるハイテク農業分野での技術提供や、海産物の養殖場の整備、再生可能エネルギーの発電所の建設などが増加している。それらの投資を行うためには事前のFS調査はもちろんのこと、各省・都市の投資案件を管轄している地方政府との密な連携は欠かせないものである。
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