2021年10月06日 作成
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バイオマス資源大国としてのベトナム:未来を創るベトナムビジネス
シリーズで掲載しているコラム記事「未来を創るベトナムビジネス」であるが、今回は再生可能エネルギー市場の中でも2020年になって急速に注目され始めたバイオマス発電市場の動向について見ていきたい。バイオマス発電の発展は単なる国内エネルギー需要への対応だけでなく、自然環境の改善、農民の所得向上等、様々な側面を持つビジネスモデルが将来的に構築可能であると筆者は考えている。持続可能な開発にも大きく関わるベトナムのバイオマス発電について、今回は深堀して分析を行う
ベトナム政府が定める電源開発計画にもバイオマス発電開発が明記
ベトナム国内では人口増加と経済発展に伴い、電力需要が長期的に増加していく一方で、電源開発が当初の計画から大幅に遅れており、2020年代前半に南部を中心として、深刻な電力不足に見舞われる可能性があることは既にベトナム電力公社(EVN)が指摘している。
その一方で、ベトナム政府は再生可能エネルギーの開発を積極的に進めており、バイオマス発電についても、国家の電源開発計画を定める「電力マスタープラン」にて、その具体的な開発目標が記載されている。2016年4月にベトナム政府が公表した「改定第7次電力マスタープラン」(首相決定No.428/QD-TTg)によれば、導入する設備容量の目標は定められていないものの、総発電量に占める割合として、バイオマス発電を2020年までに全体比1.0%、2025年までに同1.2%、2030年までに同2.1%と、段階的に引き上げる計画が明記されている。
2020年、政府はバイオマス発電関連の投資奨励政策を改定
こうした目標があるものの、これまでバイオマス発電への投資に関する動きはこれまで殆どなかったのが事実である。現状として、ベトナム国内における既存のバイオマス発電所はサトウキビ残渣を活用した製糖工場におけるごく小規模な発電所が中心である。
現在までバイオマス発電への投資が進んでこなかった理由としては、政府による電力の買取価格(FIT価格:固定電力買取価格)が非常に低い水準に抑えられていたことが主要な原因と考えらえる。多くの発電事業者にとって、採算性の観点からバイオマス発電は魅力的な投資分野とは言い難い状況であった。しかし、今年2020年3月になり、ベトナム政府がバイオマス発電のFIT価格を首相決定(No.8/2020/QD-TTg)により引き上げ、俄かに注目を集め始めている。
同規定では、熱電供給(コジェネレーション)のFIT価格を7.03USセント/kWhと定め、旧FIT価格の5.8 USセント/kWhから21.2%引き上げた。その他のバイオマス発電についても、8.47 USセント/kWhと引き上げた。FIT価格を引き上げることで、ベトナム政府はバイオマス発電への投資を奨励する狙いとみられる。これにより、電力購入契約を締結した場合、最大20年間にわたり、固定価格で電力を買い取ることが法規定でも明確になった。FIT価格の引き上げは再エネへの投資を奨励するうえで非常に重要である。事実、FITが高水準であった太陽光発電では旧FIT価格、9.35 USセント/kWhが定められた直後、2019年6月末の期限を前に国内での太陽光発電の商業運転開始が一挙に広がった。
バイオマス資源大国としてのベトナム
しかし、肝心であるのは燃料となるバイオマス燃料がベトナムにどれだけ存在し、どれだけアクセスできるかである。バイオマス発電への投資においては、燃料の安定調達は最重要課題の1つであるからだ。
まず前提として、ベトナムは世界的に見ても、農業、林業が盛んな国であり、その副産物として多くのバイオマス燃料が存在している。意外に知られていないが、ベトナム産シェアの大きい農産物は非常に多く存在する。例えば、コメの輸出量はインドやタイと肩を並べ、毎年トップ3に入っており、世界シェアの15%程度を占めている。カシューナッツの輸出量は世界1位であり、カシューナッツ生産量は2020年時点、17年連続で首位を維持している。また、コーヒー輸出量は近年、ブラジルに次ぐ世界2位であり、ロブスタ種コーヒーの生産量は世界1位である。このほか、天然ゴム輸出量世界第3位、ライチ輸出量世界2位等、世界市場を支えるベトナム産農産物が数多く存在する。こうした背景により、農産物、林産物の副産物として得られる、稲わら、もみ殻、カシューナッツ殻、サトウキビ残渣、コーヒー殻などの多様なバイオマス燃料がベトナム国内で発生している。
バイオマス発電の最重要課題:燃料の長期的な安定調達
このように、多種多様なバイオマス燃料があるが、ベトナムのバイオマス燃料は大きく林業系、農業系に分類される。林業系は主に森林木材(薪等)、間伐材・林地残材、工場等残材、木材ペレット・チップ。農業系は稲わら、もみ殻、サトウキビ残渣、カシューナッツ殻、コーヒー殻、トウモロコシ残渣、キャッサバ残渣が主要な燃料としてあげられる。
まずはベトナム国内におけるバイオマス燃料の全体像を確認したい。ベトナム商工省傘下のエネルギー研究所(IE:Institute of Energy)による統計データ、レポートは、バイオマス発電市場を分析するうえで、非常に有用である。IEはベトナムの国全体の電源開発計画を定める「電力マスタープラン」等を立案している機関であり、ベトナムのエネルギー政策を担う重要機関であるとともに、バイオマス燃料の政府統計においても最も信頼性が高い情報源であると考えられるからだ。
同研究所の統計によれば、ベトナム国内で発生するバイオマス燃料は長期的に増加する見通しだ。図中のグラフは発電に使用可能なバイオマス燃料の年間発生量(左図)と、その発生量を発電量に換算したものである(右図)。これによれば、発電に使用可能なバイオマス燃料は将来的に増加する見通しが立てられている。IEによれば、国内の林地や農地の面積が増加するうえ、平均収量が向上するため、発電に使用できるバイオマス燃料も増えるという。
ベトナムのバイオマス燃料は農業系と林業系に大別
次にバイオマス燃料を種類別に見ると、2015年実績では発電量換算ベースで「薪・枝・間伐材・残材」が38.9%、「木質燃料」が26.3%、「稲わら」が20.9%、「もみ殻」が8.6%と、構成比を見ると林業系の割合は65.2%を超えており、林業系が農業系を上回っている。発電に使用可能な量が多いことに加え、もみ殻や稲わらよりも木質燃料の方が、燃焼価値が高いことも要因の1つであろう。2035年にかけて、林業系の構成比は73.2%に高まる見通しだ。
この結果に基づき、農業系より林業系が安定調達に資するのかと言えば、一概にそうとは言い切れない。省や地域によって、バイオマス燃料の分布は大きく異なるため、場所によって活用の余地がある燃料も異なる。例えば、稲わらやもみ殻の場合、稲作が盛んであるメコンデルタ地域にその大部分が集中している一方で、伐採が可能な人工林の分布は中部に集中している。また、一口に人工林といっても、アカシアやユーカリ、ゴム等、樹種によって人工林の分布は異なる。開発場所となる省や地域に応じ、安定調達が可能な燃料の選定が重要なポイントとなるだろう。
より重要な点は、こうしたバイオマス燃料はその大部分が有効活用されていないと見られる点だ。一部は燃料や肥料といった用途に使用されているようであるが、燃料によっては殆どが廃棄されているなど、活用の余地が高い燃料もあり、地域や場所によってもその使用状況や購入価格でさえ大きく異なる。
環境保護、農民の所得向上にもつながるバイオマス発電
以上をまとめると、農業、林業が盛んなベトナムでは多様なバイオマス燃料が存在する上、ベトナム政府が2020年になりバイオマス発電への投資に関する奨励政策を改定し、より多くの投資を促す方針を強めた。増え続ける電力需要に対して、規模は小さいものの、クリーンエネルギーの1つであるバイオマス発電の開発が進めば、ベトナムの電源開発においても画期的な動きとして今後ますます注目を高めるだろう。世界的に環境保護の意識や運動が高まる中、ベトナム国内でもその動きは確かに観測できる。
さらに重要な点はバイオマス発電の発展は単なるエネルギー需要への対応にとどまらないことである。ベトナムの経済発展の負の側面として、経済格差の広がりが指摘されているは周知の通りである。所得水準が低位にとどまる農民であるが、バイオマス発電の発展により、燃料へのニーズが高まれば、バイオマス燃料を川上で保有する農民は新たな収入源の1つを得る可能性もある。このように、ベトナムのバイオマス発電の発展は単なる電力不足への対応だけでなく、これまで活用されなかった燃料の有効活用による自然環境の改善、農民の貧困問題へのアプローチ等、様々な側面を持つビジネスモデルの1つであると言えるだろう。こうした持続可能なビジネスモデルの構築がベトナムの未来を創るうえで、重要になるに違いない。
ONE-VALUE株式会社
経営コンサルティング事業部
再生可能エネルギーチーム
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