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ベトナムの平均年収:業界別の特徴を解説

一般に平均年収は経済成長に比例して変わっていくとされています。ベトナムも、近年の目覚ましい経済発展に伴って平均年収も上昇している傾向にありますが、他の国と比較するとまだ低い水準に抑えられています。これを背景に、多くのグローバル企業は、製造や営業の拠点をベトナムに置く例が増えてきています。例えば、ゲーム機メーカー大手の任天堂は「ニンテンドースイッチ」の生産の一部をベトナムで行っています。またアップル社もワイヤレスイヤホン「Airpods」の生産拠点をベトナム北部に設置しました。
このように製造拠点として非常に注目されているベトナムですが、今回は、統計データを基にベトナムの平均年収がどのように変わってきたのか、また最も平均年収が高い業界はどこなのかについて見ていきましょう。

1.ベトナムの平均年収はGDPの成長に比例して増加傾向

ベトナム統計総局のデータによると、2019年の国内の平均年収は41万円となっています。2010年から2019年までの推移を見てみると、2010年には18.4万円ですから、10年間で約2.2倍に上昇していることがわかります。
こちらの平均年収の推移を、ベトナムのGDPと並べてみると、以下のようなグラフになります。

おおよそベトナムの平均年収の推移とGDPの推移とが重なっていることが分かります。GDPとは国内で生み出された付加価値の合計を指します。生産・支出・所得は同じ金額になるという「三面等価の原則」にもありますが、付加価値が上昇するということは所得もその分上昇すると考えることができます。

2.最もベトナムで平均年収が高い業界は?

ここでは、業界別の平均年収を見ていきます。時期は公開されている2019年のデータで統一しています。

最も平均年収が高い業界は「金融・銀行・保険業」となっています。また続いて「発電・配電・ガス等」そして「情報通信業」となっています。先ほど紹介したように、全業界の平均年収が41万円ですから、「金融・銀行・保険業」の平均年収はそれより約35%高いことになります。
以下で、上で挙げた3つの業界がなぜ平均年収が高くなっているのかについて解説していきます。

①金融・銀行・保険業

ベトナムの金融セクターではもともとモノバンク・システムという制度が敷かれていました。モノバンク・システムとは国家銀行(ベトナム中央銀行)が、中央銀行業務と商業銀行業務の両方を担うというシステムです。ドイモイ政策によって1988年にこのモノバンク・システムが解体され、二層銀行制(中央銀行と商業銀行の分離)へと移行しましたが、分離された商業銀行に対してもベトナム政府が大きな影響力を持っています。例えばベトナム最大手のメガバンク「ベトコムバンク(Vietcombank)」も2006年に民営化されましたが、今でもベトナム中央銀行が半分以上を出資しています。
こうしたベトナムの金融セクターの歴史によって、ベトナムの金融機関、特にメガバンクはほとんどが元国営であることから規模が非常に大きく、年収も非常に高くなっています。

②発電・配電・ガス等

ベトナムの電力セクターは国営の「ベトナム電力総公社(EVN)」が非常に大きなシェアを占めています。電力事業は大きく、発電・配電・送電の3つの事業に分けることができますが、発電事業ではEVN以外の民間企業の参入が可能ですが、配電・送電は現在のところEVNの独占業務となっています。このような背景に加えて、電力・ガスセクターへの参入には多額の設備投資が必要となることからも、新規参入が難しいセクターであると言えます。こうした事情により、同セクターの企業は安定した利益を確保することができており、それが年収にも反映されていると言えるでしょう。

③情報通信業 

現代は「IT/ICTの時代」とも言われており、インターネット、スマートフォン無しでの生活が想像できなくなるほど、人々の生活に情報通信技術が浸透しています。ベトナムでも事情は同じであり、ICTセクターは技術・売上ともに急成長を遂げています。情報通信業の中でも特にITエンジニアの職種は、常に需要が供給を上回っている状態であり、優秀なベトナム人ITエンジニアの収入は先進国とも並ぶレベルになっています。今後は情報通信業の平均年収が他の業界を抜いてトップになる可能性も十分に高いと考えられます。

3.ベトナムの平均年収は地域によっても異なる

日本でも都市部と地方では人々の収入に差があるように、ベトナムでも収入の高い仕事はハノイ市やホーチミン市と言った都市部に集まる傾向があります。ベトナムの地方では主たる産業が農業・林業・水産業であることが多いですが、図表にもあるように農業・林業・水産業セクターの平均年収は全業界で最下位となっています。
またベトナムでは地域別に最低賃金が定められていますが、都市部に比べて地方では最低賃金が低めに設定されていることも、地域によって差が出る原因となっています。そのため、特に若者がより良い仕事、より良い収入を求めて地方を離れて都市部へ移っていく現象がベトナムでも起こっており、ベトナムの都市流入率は今後も上昇していくと考えられています。

4.まとめ

ベトナムの平均年収はGDPの成長と比例する形で継続して上昇してきました。全体の平均年収は41万円ですが、業界や地域によって差があることも、本レポートで確認をしました。冒頭でも述べたように、多くの企業がベトナムに製造拠点を移管する動きを強めています。もちろん賃金の低さというのもこの動きの一員ですが、それ以上にベトナム人が仕事に非常に真面目に取り組み、手先も器用であり、労働力の質がとても高いというメリットもあります。ぜひベトナムへの企業展開、進出をお考えの際には、上記の情報を参考にしてみてください。

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