インサイト

ベトナムのビルメンテ市場の成長ポテンシャル

世界銀行の予想によると、ベトナムにおいて、2040年までに都市に住む人口が現在よりもさらに50%増加すると言われている。首都ハノイ、成長著しい中部のダナン市、旧サイゴンのホーチミン市を始めとする各都市では人口の増加が続き、それに伴う高層ビルの建築が過熱している。

そのような中で、これらのビルをどのように維持・管理していくために必要な「ビルメンテナンス」業界がいま注目を集めている。同業界は、まだベトナム国内でのノウハウの蓄積が少なく、外国企業参入のポテンシャルが非常に高いと考えられている。今回のレポートではビルメンテナンス市場の成長ポテンシャルについて、データと共に見ていきたい。

1.ベトナムの建設・不動産セクターの急速な成長

上の図は建築、不動産の各セクターにおける投資額の推移を表したものである。両セクターともに2007年から2019年にかけて投資額が右肩上がりに増加していることが分かる。これらは都市部の経済発展およびそれに伴う人口流入により、新たなビルやマンションの需要が高まったことに因るものである。

2.ベトナムのビルメンテナンス市場の課題と機会

上述したような新築ビル・マンションの増加に伴い、それらを管理するビルメンテナンスサービスの需要もベトナム国内で高まっている。しかし、ベトナムにおけるビルメンテ業界はこれまでは非常に小規模であり、尚且つそのような需要が生まれてからの年月もまだ短いため、同業界はまだ発展途上であると言え、社会的ニーズが高まっている一方で、プロフェッショナルなサービスを提供できる企業が非常に少ない。

ベトナム現地でビルメンテナンス、ファシリティ事業を展開する企業ら及び現地報道によれば、ベトナムのビルメンテナンス業界を以下のように評価している。

  • ベトナムの設備管理、ビルメンテナンスの発展レベルは40年以上前の日本と非常に似ており、40年遅れている
  • 一般的な清掃業務を提供できる企業が殆どで、特別清掃業務等の専門的なサービスを提供できる企業は多く存在しない状況
  • 建物の管理・運営について助言できるような企業も殆ど存在しない
  • 建物管理に関わる資格制度も整備されておらず、企業によって品質のバラツキも多い

このようにベトナムにおけるビルメンテ業界が未熟であることは、既に自国にてノウハウを有する外国企業にとってはチャンスであると言える。特にベトナムにおいては日本のファシリティマネジメントサービスに対する信頼は非常に厚い。日本企業が自社のノウハウや専門的スキルを導入しベトナム市場に参入することは、ベトナムにおける事業展開の成功要因の1つになると考えられる。

3.ビルメンテナンス事業における外資規制

ベトナムの不動産およびビルメンテナンスに関する規制は、ベトナム投資法(No.61/2020/QH14)および不動産事業法(No.66/2014/QH13)にて定められているが、現状ベトナムのビルメンテナンス事業(不動産管理サービス)において外資系企業による資本規制は存在せず、外資100%による会社設立も可能である。

ベトナム投資法(No.61/2020/QH14)によれば、「集合住宅の管理、運営サービス事業」は「条件付経営投資分野」に指定されており、事業ライセンスを事前に取得する必要がある。

またビルメンテとはどのような事業内容を指すのかについては、ベトナム不動産事業法の第75条において「不動産管理サービス」として下記のように定められている。

  • 土地所有権者、不動産所有者より委任を受けて不動産の売却、賃貸等を行うこと
  • 不動産の運営が正常に実施されることを目的とした管理の計画
  • 不動産の維持管理・修繕
  • 契約に基づいて不動産の管理・運営監督を行うこと
  • 土地所有権者、不動産所有者より委任を受けて業務を行うこと

上記のように、ビルメンテ業界における外資参入は他業界と比べても特にハードルの高いものではない。

4.まとめ

ここまで述べてきたように、当社ではベトナムのビルメンテナンス業界は今後非常に成長ポテンシャルが高く、なおかつ外国企業による投資の可能性も十分にあるセクターであると認識している。ベトナムの経済発展は今後も続いていき、冒頭に挙げた3つの都市以外の地域でも、都市を中心とした地域の経済圏が形成されつつある。今後のレポートでも同セクターの最新動向については随時、取り上げていく予定である。

関連記事