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日本の航空整備士制度:航空整備における外国人の活用可能性【前編】

2019年4月から新たな在留資格制度「特定技能」が開始された。この中では特に人手不足が深刻な14分野において特定技能外国人を受け入れるとされているが、その中で航空分野が含まれている。航空分野の有効求人倍率は平成29年度には代表的な職種で4.97倍(陸上荷役・運搬作業員)等となっており、平成28年の雇用動向調査における職業別の欠員率が運輸業・郵便業3.4%等となっている。

これを受けて、航空分野においては①航空機整備(機体、装備品等の整備業務等)、②空港グランドハンドリング の2つの職種において特定技能外国人が受け入れられることとなった。今回のレポートでは①航空機整備 について、既存の航空整備士制度についての調査・分析を行った上で、今後どのように外国人材を航空整備士として受け入れていくことができるかについて分析していきたい。

尚、既存の航空整備士制度について、日本はもちろんのこと、欧州、米国の2つの国における整備士制度も比較対象として調査の対象とする。

航空整備士の労働市場の現況

グローバル化の発展、および格安航空(LCC)の普及により、今後航空機の離発着数は急増していくと見込まれている。現在はコロナ禍において増加の勢いは止まっているものの、コロナ収束後にはまた増加が再開すると考えられる。それに伴って、必要となる航空整備士の数も増加していくと予想されている。

整備士の需要見通し

国際民間航空機関(ICAO)の予測によれば、国際的には2010年時点での整備士の数の2倍の整備士が必要となると予測されている、その中で、発展著しいアジア/太平洋地域においては、2010年時点の約3.5倍の整備士が必要になると予測されている。

日本における整備士の現況

日本における整備士の数は2000年あたりからほぼ横ばい、またはやや減少している。特に問題となるのは、整備士の年齢構成であり、2013年時点で整備士の年齢構成は40歳台および50歳台に大きく偏っている。今後数年の間にこれらの世代の航空整備士が大量退職すると見込まれており、大規模な整備士不足が発生すると考えられている。

このような状況からも、航空整備士の職種における外国人材の受入は非常に重要であると考えられる。

日本の航空整備制度

現在、特定技能制度では特定技能1号という在留資格で外国人材が受け入れられている。しかし特定技能1号は5年間という在留期間の制限があり、中長期的に航空整備士における人材不足を解消するには、在留期間の制限がない特定技能2号人材にまで受入を広げていくことが必要である。特定技能2号は「熟練した技術を有する外国人材」に付与される在留資格であることから、どのように熟練した外国人技術者を育成していくべきか、その育成スキーム等や、求める技能水準などを決定していく必要がある。

以下では、上記のことを決定していくに当たって参照すべき、既存の航空整備士制度について解説していきたい。

航空整備関連のライセンスの概要

航空機の整備に関わるライセンスとしては、日本の航空法および航空法施行規則に基づいて航空整備士、航空運航整備士および航空工場整備士の3つに大別できる。航空整備士および航空運航整備士はそれぞれ一級、二級の区別があり、一級は全ての航空機の整備が可能であり、二級は小型・中型の航空機に限って整備が可能である。

航空運航整備士はホイールやブレーキ、無線電話などの交換や日常的な点検作業を実施した後の確認(ライン整備)のみが可能であり、航空整備士は航空運航整備士の業務範囲に加え、エンジンや脚などの交換作業や機体構造の損傷修理など格納庫内で行う作業全般の確認(ドッグ整備)まで行うことができる。航空工場整備士は航空機の部品の整備(ショップ整備)を行える資格である。

航空整備士および航空運航整備士は、取得したライセンスによって整備ができる航空機の型式が定められている。そのため、複数種類の航空機の整備を行うためには、それぞれの型式に応じたライセンスを取得することが必要である。一方で航空工場整備士は業務の種類によってライセンスが分かれており、機体構造関係、機体装備関係、ピストン発動機関係、タービン発動機関係、プロペラ関係、計器関係、電子装備品関係、電気装備品関係、無線通信機器関係の種別となっている。

また整備関連ではないが、航空機を扱う際に必要となる国家資格(航空従事者資格)には、上述した整備士の他に操縦士(パイロット)、航空機関士(フライトエンジニア)、航空通信士、航空士がある。

受験資格

航空整備に関わる各ライセンスの試験には受験資格がもうけられている。

航空整備士

航空整備士については一級航空整備士と二級航空整備士で受験資格が異なっている。

一級航空整備士は、20歳以上で、該当する型式の航空機整備の6ヶ月以上の経験を含む4年以上の整備実務経験を有する者に受験資格が与えられる。

二級航空整備士は、19歳以上で、該当する型式の航空機整備の6ヶ月以上の経験を含む3年以上の整備実務経験を有する者に受験資格が与えられる。

航空運航整備士

航空運航整備士については一級航空運航整備士と二級航空運航整備士ともに、19歳以上でそれぞれ該当する型式の航空機に関する6ヵ月以上の実務経験を含む2年以上の整備実務経験を有する者に受験資格が与えられる。

航空工場整備士

航空工場整備士については18歳以上で、各種別に関する業務について2年以上の実務作業経験を有する者に受験資格が与えられる。

試験の流れ・内容

航空整備士

航空整備士の試験は学科試験、実技試験の2部に分かれている。学科試験が年3回実施されており、全科目100点満点のうち70点以上で合格である。学科試験には科目合格制度が導入されており、試験で一部学科が不合格でも、次回試験ではすでに合格している学科については免除され、残りの学科を1年以内に受験することで全科目合格となる。学科試験合格後、2年以内に各種書類のコピーを提出し、実技試験を受ける。最初の実技試験に合格後は、技能証明書の交付通知書が送付されて、地方航空局または航空局保安部運航安全課に登録免許税納付書と学科試験結果通知書のコピーとともに提出すると、整備士の航空従事者技能証明書が交付される。

学科試験および実技試験の内容については以下の通りである。

学科

  • 機体(航空力学理論含む)
  • 発動機知識
  • 電子部品等
  • 航空法規(ヒューマン・ファクタ含む)

実技

  • 整備基本技術
  • 整備・検査知識
  • 整備技術
  • 点検作業
  • 動力装置操作

航空運航整備士

航空運航整備士の試験の流れも、ほとんどは航空整備士と同じである。科目合格制度が導入されており、学科試験で一部学科が不合格でも、次回試験ではすでに合格している学科については免除され、残りの学科を1年以内に受験することで全科目合格となる。また実技試験についても学科試験合格後から2年以内であれば再受験することができる。相違点は、航空整備士の国家試験が年3回行われているのに対して、航空運航整備士は年2回である。

学科試験および実技試験の内容については以下の通りである。

学科

  • 機体・電子装備品等
  • 発動機
  • 航空法規

実技

  • 整備基本技術・検査技術・整備知見
  • 日常点検作業

航空工場整備士

航空工場整備士の試験の流れは、航空運航整備士と同じである。

学科試験および実技試験の内容については以下の通りである。

学科

  • 航空力学・取扱知識
  • 機体知識
  • 整備・改造・点検知識
  • 法規

実技

  • 機体の装備品の取扱
  • 整備・検査
  • 搭載重量配分・重心位置の計算

ライセンス取得までの流れ

各ライセンス取得の流れとしては、どのライセンスでも実務経験を積んだ後に学科試験・実地試験を受験してライセンスを取得する流れとなる。しかし、指定航空従事者養成施設という国土交通省による指定を受けた専門学校を卒業した学生に対しては、実技試験が免除され、専門学校を修了した時点ですぐに二級航空整備士となることができる。これは航空運航整備士や航空工場整備士の場合でも同様である。

実際には、各航空整備会社は有資格者の採用を優先的に行っているため、航空整備士として就職するためには養成学校を卒業する方が有利になる。

まとめ

今回の記事では、日本の航空整備士制度について情報を整理してきた。航空整備は航空機の安全な運航に関わる重要な業務であり、未熟な技能が整備に関わることは乗客の命を危険に晒すことにも繋がる。そのため、整備に係る国家資格には厳格な基準、受験要件が定められている。今後、外国人材のさらなる航空整備士としての受入を進める際にも、技能要件を維持しながらどのように外国人材の育成スキームを作り上げていくかが需要となるだろう。

本記事では、日本の制度について概観してきたが、次回のレポートでは米国および欧州の航空整備士制度について見ていきたい。

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