2021年10月06日 作成
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米国・欧州の航空整備士制度:航空整備における外国人の活用可能性【後編】
前回のレポートでは、日本における航空整備士制度についてまとめてきた。今回の記事では、米国・欧州の航空整備士制度について見ていきたい。各国の航空整備士制度を調査することで、今後日本において外国人材を航空整備士として中長期的に受け入れるためのスキーム策定の参考となることを企図している。
アメリカの航空整備士制度の概要
アメリカの航空整備士の資格はアメリカ連邦航空局(Federal Aviation Administration=FAA)が認定する航空整備士ライセンス(A&P)がある。日本の航空整備士の場合は航空整備士、航空運航整備士があり、それぞれ整備できる航空機の規模・型式に応じて1級、2級に区別される等詳細に分けられているが、アメリカの場合はこのA&P1種類のみである。
A&Pは世界的に見ても存在感が強く、多くの国でA&Pライセンス保有者はその国の航空整備士への切り替えが可能である。これには、ボーイングを始めとするアメリカ製の航空機が世界の航空機の半数以上を占めているという背景によるものである。日本の場合はA&P保有者は航空整備士試験の実技試験の1部が免除される。
アメリカの航空整備士ライセンス(A&P)の受験資格
あくまで上記の条件は受験資格というよりは、ライセンスの発効のための条件である。また、米国以外に居住しており英語能力が十分でない場合でもA&Pライセンスが発行されるが、その場合は「米国以外で有効」という条件が付いたライセンスになる。
実務経験については通常18ヵ月以上の職歴が求められるが、FAAが認定する専門学校に通っている者は、卒業時に試験を受ける資格を与えられる。
アメリカの航空整備士ライセンス(A&P)の試験内容
A&P試験はGeneral, Airframe, Powerplantの3つのパートがあり、それぞれに学科試験、口頭試験、実技試験が課される。そのためA&Pのライセンスを取得するためには合計9つの試験に合格する必要がある。学科試験についてはテストセンターにてコンピューター試験を受ける形となる。学科試験合格後に口頭試験、実技試験を受ける形となる。
欧州の航空整備士制度の概要
欧州の航空整備士の資格は欧州航空安全機関(European Aviation Safety Agency=EASA)が、業務内容に応じてカテゴリーA、B1、B2、Cの各ライセンスを発行している。それぞれのカテゴリーが行える業務は下記のように定められている。
カテゴリーA整備士は軽微なライン整備作業および単純な調整作業後の確認行為を実施することができる。カテゴリーBはB1とB2に分かれており、それぞれ構造、発動機、機械系統、電気系統の整備とアビオニクス、電気系統の整備を行うことが出来る。カテゴリーCはベース整備後の確認行為を行うことができる。
EUの航空整備ライセンスの受験資格
EUの整備士資格は各カテゴリーに応じて必要な訓練時間が定められている。カテゴリーAの場合は訓練時間800時間以上、カテゴリーB1の場合は2400時間の基礎訓練と150時間の型式に関する学科試験および2週間以上の実技訓練、カテゴリーB2の場合は2400時間の基礎訓練と100時間の型式に関する学科試験および2週間以上の実技訓練、カテゴリーCの場合は訓練時間30時間以上となっている。
EUの航空整備ライセンスの試験内容
EUの航空整備ライセンスの試験内容は各カテゴリーによって異なる。
カテゴリーA、B1、B2については学科試験と実技試験が課される。日本の航空整備士等の試験と異なるのは、これらの試験は基本的に訓練施設で実施される点である、またカテゴリーCの場合は学科試験のみである。
日本、アメリカ、EUのライセンス比較
これまで日本、アメリカ、EUの3つのライセンスの概要をそれぞれ概観してきた。日本の航空整備士の制度はもともとEUの制度が参考にされているため、業務内容がほぼ重なっている。一方でアメリカのA&Pは特殊で、一つのライセンスでかなり広範囲の業務を行うことが出来る、いわばおおざっぱなライセンス構成となっている。
各ライセンスにて業務ができる内容の重なりは大まかに下記の図のようになる。
最も業務範囲が大きいのはアメリカのA&Pとなる。A&Pの業務範囲には、大規模ではない改造までが含まれている。またA&Pでは航空機の型式による区別はない。
日本の一級航空整備士はEUのカテゴリーB1およびカテゴリーB2を併せた業務内容とほぼ同等になる。また日本の一級航空運航整備士はEUのカテゴリーAとカテゴリーCを併せた業務内容とほぼ同じになる。
もちろん、詳細に見ていくと実際には図のように全ての業務内容が重なる訳ではないため、あくまで参考程度としての業務範囲の関係となる。
日本・アメリカ・EUのライセンスを比較しての日本の課題
前編でも述べたように、今後日本国内で大規模な航空整備士不足が起こる可能性が高い。外国人材の受入は一つの解決策であるが、受け入れた外国人材を効果的に活用するためには、現行の制度の課題を定め、改善していく必要もある。ここでは、2つの課題について述べていきたい。
日本のライセンス取得にかかる訓練時間の課題
日本、米国、EUのそれぞれの最上級ライセンス取得・発効までに必要な期間を比較すると、米国が最も短く合計3年でA&Pのライセンスが発効する。EUは合計で4~5年にてB1、B2のライセンスが発効する。一方で日本が最も時間がかかり、合計で6~10年もの期間を要する。上級資格の発効までに時間がかかるほど、人材の入れ替わりにも時間がかかり、尚且つ外国人材が全ての資格を取得するまで待ちきれずに帰国、または他の国の資格を取得してしまう可能性もある。今後外国人材の受入を促進し、若い人材を登用していくためには、ライセンス発効までの期間をより短縮する必要があるだろう。
他国のライセンスとの切り替えに関する課題
日本の航空整備士資格はA&PやEUの資格からの切り替えは可能であるものの、試験のほんの一部が免除されるのみで、実質再度別の資格取得のための試験勉強をしなくてはならない。ライセンス切り替えのハードルを上げることは、自国の技能水準を維持するには良い面もあるが、国際的な人材の流動性が低下してしまうデメリットもある。即戦力となる外国人材を受け入れるためにも、ライセンス切り替えのハードルを下げることについて、前向きな検討が必要であろう。
まとめ
今回は前回の記事と併せて、日本・米国・欧州の航空整備士のライセンスについて調査を行い、各ライセンスの比較から今後外国人材を航空整備の分野で受け入れる際の課題を洗い出した。特定技能の14分野の中でも、航空整備の分野は特に外国人の受け入れが思うように進んでいない。この状況のためには外国人材への積極的なアピールだけでなく、今後は受入スキームを改善していき、外国人材へのインセンティブを与える必要もあるだろう。
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