2021年10月06日 作成
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図解で分かるベトナム経済:製造拠点から消費市場へのシフト
前回の記事では、中国からの生産拠点の移転について分析を行った。近年の傾向として、日本企業が検討する事業拡大の有望国として、中国ではなくベトナムを候補として挙げる日本企業の割合が拡大しており、その理由として、長期的なベトナム市場の成長性を評価する意見が多かったことを確認した。
また、2050年までの世界各国の経済成長を比較した場合、ベトナムは世界で最も経済成長を遂げる国であるというレポート結果もあり、2050年までの年平均の実質GDP成長率+5.3%で成長を維持するとされている。2016年時点、ベトナムはGDPの世界順位で39位であるが、2050年までには20位まで順位を上げるという予測結果もある。
今回の記事では、製造拠点として注目されているベトナムであるが、消費市場の成長性についても深堀していきたい。まずはいくつかの基本的なデータから概要を掴んでいきたい。
ベトナムの一人当たりGDPは間もなく3,000ドルを突破
まず初めに、ベトナムの一人当たりGDPの推移であるが、1990年以降、ベトナムの一人当たりGDPは一貫して成長を維持している。2000年時点ではわずか400ドルに過ぎなかったが、2014年に2,000ドル台を突破し、2021年~2022年頃には3,000ドルを上回る見込みである。
また、2025年時点では3,931ドル程度とも予測されている。2000年から2019年までベトナムの一人当たりGDPは年平均成長率+10.6%を維持しており、2019年以降の成長スピーは以前よりも鈍化するものの、年平均6.2%の成長は続ける見込みだ。
重要な点は、ベトナムの一人当たりGDPが間もなく3,000ドルを突破するという点である。一般的に1人当たりのGDPが3,000ドルを超えると、国民の自動車や家電、家具といった耐久消費財の購入意欲が急速に高まると言われている。ベトナムの一人当たりGDPは東アジア、東南アジア諸国各国と比較しても低位に留まっており、今後の成長余地は大きい。現在、規模的にはフィリピンと同程度であるが、進出先として日本企業がよく比較するタイとは、3倍近くの差がある。
中間層の拡大と耐久消費財の普及が進む
実際にベトナムの世帯所得分布をみると、中間層が拡大していることが分かる。中間所得層(世帯所得5,000~34,999US$)の割合は、2000年の約10.4%から、2018年には約47.2%にまで上昇しており、上位中間所得層(10,000~34,999US$)の割合が2000年時点では0.0%であったが、2018年には14.9%まで増加している。
イギリス市場調査会社ユーロモニターによれば、ベトナムでは2030年までに全世帯の49%が中間層となり、1世帯当たりの年間の可処分所得が5,000~1万5,000米ドル(約55万~164万円)で、2018 年と比べて+33.8%増加すると見込まれている。
ベトナム統計総局が公表している「ベトナム家計生活水準調査報告書」をみても、ベトナムの生活水準は向上しており、家電製品や二輪車といった耐久消費財の普及が進んでいる。2018年版の最新の統計結果によれば、ベトナム全国における一人当たりの月間平均所得は2018年時点で387万ドン(約1万7千円)となっており、都市部の一人当たりの月間平均所得である562万ドン(約2万5千円)が農村部の298万ドン(1万3千円)を大きく上回っている。
こうした所得の向上に伴い、耐久消費財の普及は着実に進んでいる。二輪車については1世帯あたり、1.5台の水準まで普及しているが、自動車については全体にも普及は進んでいないが、高所得層においては普及が徐々に進んでおり、2018年には1世帯あたり0.1台まで拡大した。エアコンについては、中間層を中心に普及が広がっており、100世帯当たり約36台の水準まで到達した。冷蔵庫については、高所得層、上位中間層では既に1世帯当たり1台程度まで普及しているが、中間層以下で普及が進んでおらず、今後、普及の余地があると考えられる。
小売り市場の発展と近代化:モダントレードの発展
ベトナムの小売市場における売上高も年々増加を続けており、2019年時点における売上高は約17兆円に及んでいる。2005年から2009年頃にかけての高い成長率ではないが、2015年以降は、年率10%台程度の成長率を維持している。
ベトナムでは伝統的小売り業態(トラディショナルトレード:TT)が大きな割合を占めているが、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ショッピングセンターといった近代小売り業態(モダントレード:MT)の普及が着実に進んでいる。近年では、トラディショナルトレードの成長率は年率数%程度に留まっているが、モダントレードの成長率は10%以上に到達している。
事実、ベトナムでは、スーパーマーケット、ショッピングセンターの店舗数は増加を続けている。ベトナム統計総局によれば、スーパーマーケットの店舗数は2010年時点では600店舗に留まっていたが、2019年には1000店舗以上までに増えた。同様に、ショッピングセンターも2010年時点の100店舗程度から、2019年には240店舗まで店舗数が増大している。
また、eコマース市場も発展が見込まれる。2019年時点のeコマース市場の売上高は44億米ドルであるが、2024年には85億ドルまで市場が成長することが見込まれている。通信販売の利用者数も2019年の3,960万人から5年後の2024年には6,690万人まで拡大する予測だ。ベトナムのeコマース市場の発展には、決済システムや物流インフラの点で課題は残っているものの、普及が進んでいくトレンドに変わりはないだろう。
相次ぐ日系小売り企業の進出
実際、2014年頃から日系の大手小売企業のベトナム進出が続いている。ファミリーマートやミニストップ、イオンモールは比較的早い2010年頃の時期に進出しているが、百貨店業では高島屋が2016年、コンビエンスストア業においてはセブンイレブンも2017年にホーチミン市に開店している。直近の傾向としては、ユニクロ、良品計画といった専門店の小売企業も進出しており、ベトナムの消費市場の成長が伺える。また、ドラッグストアのマツモトキヨシも1号店のオープンに向けて、現在は準備中であるという。
市場ニーズ、ベトナム消費者の嗜好への理解が不可欠
こうしみてと、ベトナムでは国民の所得水準の向上、中間層の拡大、耐久消費財の普及、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ショッピングセンターといった近代小売り業態(モダントレード)の普及が着実に進んでおり、消費市場として今後も発展していく成長性が高い。実際に日系小売企業のベトナム進出も進んでおり、今後もベトナム現地の消費市場をターゲットとした消費財メーカーや小売り企業の進出が拡大していくだろう。
日本ブランドはベトナム現地でも高品質、高技術、安全性の証として非常に好意的に受け止められているが、ターゲットとなるコア顧客層はホーチミン市やハノイ市といった購買力が国内でも高い都市部に集中しており、顧客の獲得、用地・人材の確保の面で、同業他社との競争は激化していくことも予想される。また、現地の消費者ニーズ、嗜好に応じた商品や店舗の設計を通じて、ベトナム消費市場の特性、ベトナム人消費者の嗜好への理解は不可欠であろう。トラディショナルトレードが依然として競争力を保持する中、ベトナム市場進出の目的、市場ニーズの徹底的な理解による戦略が求められる。
製造拠点としてもベトナムは非常に有望な国の1つであることは変わりはないが、消費市場としてもポテンシャルは高い。この市場に日本企業がいかに戦略を立てて進出するかが今後の至上命題となるだろう。
ONE-VALUEについて
ONE-VALUEはベトナムに特化した経営コンサルティング会社として、これまで多くの日本企業のベトナム進出、M&A実施への支援に携わってきました。ベトナム進出支援の実務経験、各産業に対する知見と洞察、ベトナム政府・ベトナム民間企業とのネットワークを活かして、引き続き、多くの日本企業のベトナムでのビジネス支援を行っていきたいと考えています。ベトナムでのビジネス、事業展開、投資についてご関心のある方はぜひご連絡ください。
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