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ベトナム外食産業:日本食人気の高まりと事業参入の成功要因とは

今回のレポートではベトナムの外食産業について考察していきたい。1億人規模の人口を有するベトナムであるが、コロナ以前までは6~7%の高成長を維持し、コロナ感染拡大の2020年においても東南アジアのなかでは数少ないGDPプラス成長を遂げた国となった。新型コロナウイルスが感染拡大した一方で、ベトナム国内の内需・消費市場は落ち込んでおらず、小売市場の売上高や自動車販売台数といった各指標を見ても、2020年後半には前年同月比でプラス成長に転じ、消費市場はなおも成長が続く。

経済成長に伴う中間層・富裕層の拡大に加え、ベトナムでは日本食が依然として人気が高く、ベトナムの外食産業は高成長が見込まれる有望市場の1つであると考えている。そこで今回のレポートでは、ベトナムの外食産業についての動向と今後の見通しについて分析していきたい。

ベトナム外食産業の市場規模

ベトナム統計総局の公表データによれば、ベトナムの外食市場(一部宿泊施設市場も含む)は2019年時点で586兆VNDとなっており、これは日本円に換算すると、約2兆7,559億円程度の市場規模となっている。ベトナムの外食市場は過去20年間にわたって概ね年間2桁成長を達成しており、今後も中間層や富裕層の拡大につき、市場は成長を続けるものと考えられる。その中でも、日本食への関心の高まりは様々なデータから伺える。

日本食人気の高まり

現地報道によれば、カテゴリ別外食における顧客一人当たりの一食分支出額において、日本食への支出額は最も高く、日本料理はBBQや鍋料理、イタリア料理を上回っている。このデータによれば、ベトナム人は日本料理を外食で食べる際一人当たり270,000VND(約1,260円)支出するという。ベトナム統計総局によれば、所得が高い都市部においても一人当たりの月平均所得は5,624,000VND(約26,400円)程度であるため、現地消費者において、日本食レストランは上位中間層から富裕層がメインのターゲットとなるだろう。

一方で、JETROによれば、ベトナム人の食の嗜好の調査(2015)において、ハノイ・ホーチミン市に居住する 18 歳以上の男女 572 人にアンケート調査を行った結果、好みの国料理として最も回答が多かったのはベトナム料理であったが、ベトナム料理を除くと、全体では「韓国料理」が 51.9%で最も高く、次いで「日本料理」37.7%、「中国料理」27.3%と続いた。韓国料理はハノイの方がホーチミンよりも約 19 ポイント高かった。このことから、地域に応じた食の嗜好の違いはあるものと考えられる。例えば、北部は中国の影響を受けるため塩辛い、しょっぱい味付けが好まれる一方で、南部は甘い濃い味、中部は辛い味付けが好まれると一般的には言われている。

また、同調査の「日本料理の認知度」については、全体では「寿司・刺身」(94.3%)、「うどん」(78.8%)、「焼き鳥」(72.9%)の順番で認知度が高いという結果になった。認知度上位である「寿司・刺身」、「うどん」はホーチミンの方がハノイよりも数字が高い。またホーチミンのたこ焼きの認知度はハノイよりも約 12 ポイント高いなど、都市によって認知度は異なっている。

安全性や品質がより重視される傾向

日本食そのものに人気があることに加えて、ベトナムでは日本式サービスが消費者の魅力をつかんでいる。ベトナムで人気がある高い日本料理レストランを見ると、他店にはないメニューのコンセプトや独自の店内のインテリアに加え、安全性、品質食材の使用を重視しているという傾向が読み取れる。新型コロナウイルスの感染拡大により、安全や衛生への意識が高まる中、日本料理レストランでは、安全の基準を順守し、高品質の食材を使っているだろうという消費者の信頼感がある。

オンラインフードデリバリー市場の勃興

一方で、オンラインフードデリバリー市場も高成長が続いている。2018年のベトナムのオンラインフードデリバリー市場の売上高は1億4800万米ドルで、平均成長率は28.5%/年となっている。 その中で、レストランから消費者への配達セグメントからの売上高は約1億1700万ドル(79%)であり、プラットフォームから消費者への配達セグメントの売上高は約3,200万ドル(21%)である。 2023年には全体で4億4900万米ドルに達すると推定されている。プラットフォームにおいては、ベトナムではGrab Foodが市場シェアの6割近くの市場シェアを握っているとされているが、Nowなどのその他のプレーヤーも存在している。

結論

以上を整理すると、中間層と富裕層が拡大し、日本食の人気・信頼性が高いことを考えると、日本食を中心とした外食産業は今後もベトナムで発展していくだろう。但し、消費者は以前にも増して安全性や衛生、品質に関心を払うようになっており、新型コロナウイルスの感染拡大によりライフスタイルが変容するなど、市場環境は大きく変化している。ベトナムではもともと持ち帰り文化があるが、その傾向は新型コロナウイルスの感染拡大を受けてますます高まることが予測される。

ベトナム外食産業への進出形態としては、現地企業との合弁事業やフランチャイズ方式といった形式が増加しているが、食材の調達や現地ネットワークにおいても現地企業は優位性があり、日本企業は互いに補完しあえる関係性を持てるであろう。現地消費者の嗜好の理解、現地ネットワークの開拓がベトナム外食産業への進出の鍵となるに違いない。

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